切り捨ては違反!給与計算における端数の扱い方とは

事業者は従業員の労働時間を正確に把握して、その時間分の給与を算出する必要があります。
しかし、アルバイトやパートの給与を、15分、5分単位などで小刻みに計算し、それ以下は切り捨てている事業者も少なくありません。端数の切り捨ては賃金の未払いになってしまいます。
そこで今回は、労働時間についての正しい考え方や計算方法を確認します。

労働時間は1分単位で計算
端数の切り捨ては労基法違反

賃金は労働の対価として使用者から労働者に支払われるものです。労働基準法第24条では、賃金について、全額支払いの原則を定めており、従業員の労働時間に応じた適正な賃金が“全額”支払われていなければ、労働基準法違反となります。
同法によれば、原則として、労働時間は1分単位で考えるのが適正とされており、1分単位の端数の切り捨ては賃金の未払いになります。たとえば、時給を15分単位で計算していたとして、アルバイトが16時56分にタイムカードを打刻すると、16時46分から16時56分の間は切り捨てることになります。しかし、この間も賃金は発生し、その賃金が支払われていなければ、賃金の未払いになります。連日のように端数の切り捨てが起きているのであれば、未払い賃金の総額は相当な額になることが予想されます。
ガストやジョナサンなどを運営するファミリーレストラン最大手のすかいらーくホールディングスが、パートやアルバイトなどの全クルー約9万人に支払う賃金について、2022年7月以降、これまでの5分単位から1分単位に改めることがニュースになりました。
また過去2年間に、切り捨てられていた5分未満の未払い金の合計、約16億円を支払うことも発表されました。
すかいらーくホールディングスは、1分単位で計算する新しい勤怠管理方式を導入したとはいえ、未だに5分や15分単位で労働時間を計算している会社はたくさんあります。たとえ長年同じ方式で計算していて、就業規則に記載されていたとしても、端数の切り捨てによる賃金の未払いは労働基準法違反になることを理解しておきましょう。

時間外労働の計算においては30分未満の切り捨てが可能

1日の労働時間の切り捨ては認められていませんが、時間外労働や休日労働、深夜労働の割増賃金については例外的な扱いが認められています。事務処理をわかりやすくするため、その月の総労働時間数に30分未満の端数がある場合には切り捨て、30分以上の端数がある場合には1時間に切り上げて計算してもよいことになっています。つまり、月ごとの端数の切り捨てや切り上げは認められていることになりま
す。たとえば、1カ月の時間外労働が15時間20分であれば、この20分は切り捨てることができます。一方で、1カ月の時間外労働が15時間40分の場合は40分を1時間に切り上げて16時間として割増賃金の算出を行ないます。
ただし、これらの措置は割増賃金に限られており、通常の労働時間は1分単位で計算する必要があります。端数の切り捨てによる賃金の未払いは労働基準法違反となるため、従業員の告発などによって、労働基準監督署から是正のための勧告や指導が入る可能性もあり、悪質な場合は送検されることもあります。
労働基準法120条では30万円以下の罰金刑が定められています。さらに、従業員や労働組合から請求を受けた場合はこれまでの未払い分を支払う必要があります。労働者には過去の未払い賃金を請求できる『賃金請求権』という権利があります。この賃金請求権の消滅時効期間がこれまでの2年から5年(当面は3年)に延長されており、これにより訴訟リスクも増えると予想されます。
未払い賃金が発生しないように、1分単位で計算できる勤怠管理システムを導入するなどして、日頃から適切な給与計算を行っていきましょう。