【2022年1月施行】改正雇用保険法の概要とポイント
2022年1月に改正雇用保険法が施行されます。雇用保険とは、労働者の生活と雇用の安定を図ること、そして労働者の再就職を支援・促進するために定められた法律です。
今回の改正によって、65歳以上の副業者であっても、労働時間を合算して週20時間以上であれば、雇用保険に加入できるようになります。
この記事では雇用保険の概要と改正内容、そして企業が必要な対応について解説します。
雇用保険法、雇用保険の加入条件
雇用保険法は、労働者の生活と雇用の安定、失業の予防、雇用機会の増大、労働者の能力の向上、労働者の福祉の増進などを目的にしています。雇用保険の前身となるのは、1947年に制定された失業保険法です。雇用保険法は、失業保険法の内容を、現代の雇用形態に則した形に発展させる目的で、1974年に制定されました。この法律に基づいて雇用保険制度は成り立っています。
雇用保険は、政府が管掌する強制保険制度です。そのため企業は従業員を雇入れる際は、雇用保険への加入手続きを確実に行わなくてはなりません。ただし、あらかじめ30日以内の期間を定めて雇用される労働者や、1週間の所定労働時間が20時間未満である労働者は対象外となっています。事業主は、以下の加入条件を満たしている従業員は必ず雇用保険に加入させましょう。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上である
- 31日以上の雇用が見込まれる
主要な給付
雇用保険は、「失業時に労働者への助けとなる保険」というイメージがありますが、失業給付のほかにもさまざまな給付があります。大きく4つの種類に分けてそれぞれ解説します。
- 求職者給付
求職者給付は、解雇や倒産、定年などで失職した労働者に対し、失業期間中の安定した生活を支え、再就職活動を支援するための手当です。一般に失業保険と呼ばれる基本手当や、けがや病気で働けなくなった場合に支給される傷病手当などがあります。 - 就職促進給付
就職促進給付は、再就職や再就職後の継続した勤務を支援するための手当です。再就職手当・就業促進定着手当・広域求職活動費などが該当します。 - 教育訓練給付
教育訓練給付では、厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した際に、受講費用の一部が支給されます。これは失業者だけでなく在職者も対象です。受講する内容によって、一般教育訓練給付金や専門教育訓練給付金などが設定されています。 - 雇用継続給付
雇用継続給付は、育児や介護などで働けない期間がある場合や、高年齢者で給与が減ってしまった労働者を対象に、所得を保証する制度です。高年齢雇用継続基本給付・育児休業給付・介護休業給付などが含まれます。
改正雇用保険法で変わること
65歳以上の雇用保険加入が容易になる
65歳以上で兼業や副業を行っている方に対する雇用保険の適用範囲が拡大されます。現在は、1つの事業者ごとに週20時間以上の勤務をしており、31日以上継続して雇用される方が適用対象です。従って、例えば、A社で週に12時間勤務し、B社で週に12時間勤務している場合、労働時間の合計は週24時間にもかかわらず、雇用保険の被保険者資格はありません。しかし、2022年1月施行の改正により、以下の項目を満たしている労働者には、雇用保険が適用されるようになります。
- 2つ以上の事業主に雇用される65歳以上の方
- 1事業主における一週間の所定労働時間が20時間未満
- 1週間の所定労働時間の合計が20時間以上
ただし、あくまでも従業員からの申し出が起点となって雇用保険が適用される点には注意しましょう。従業員本人の意思に関係なく機械的に雇用保険に加入とはならないため、企業は適切な周知などを行う必要があります。
法改正の背景
日本は総人口に占める65歳以上の割合が21%を超えている超高齢社会です。そのため、労働人口の減少が大きな社会課題となっており、高齢者の活躍を促すための制度の見直しが行われています。例えば、最近では高年齢者雇用安定法が改正され(2022年4月1日施行)、企業には、労働者の70才までの就業機会の確保が努力義務として課されるようになりました。今回の雇用保険法の改正では、65歳以上の労働者の就業機会確保や、失業時のセーフティーネットの整備を図ることが目的とされています。
法改正のメリット
65歳以上の労働者が雇用保険に加入する一番のメリットは、「基本手当」をはじめとする休職者給付が受けられることでしょう。ほかにも、再就職のための支援や、介護休業給付なども高齢者の生活を支える強い味方になるはずです。一方、教育訓練給付は受講開始時の年齢が45歳未満でなければならない要件があるほか、65歳以上の方は育児休業給付や高年齢雇用継続基本給付の対象ではない可能性が高いです。
内閣府の調査によると、65歳以上の労働者のうち、非正規社員の割合は7割以上にも及ぶとみられており、複数の勤め先の報酬を合算することで被保険者資格が得られる今回の改正は、時代の変化に則したものといえるでしょう。
企業側にとっても、65歳以上の労働者が兼業・副業がしやすくなることで、新たな労働力を確保しやすくなります。
改正雇用保険法で企業が必要な対応
副業や兼業ルールの見直し
副業・兼業を希望する者が増加している傾向をうけ、厚生労働省は2018年に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」をまとめています。現状では副業・兼業を禁止する企業は少なくありませんが、今回の改正雇用保険法の施行を機に、ルールを見直してみると良いでしょう。業務上、労働者の副業・兼業の状況を把握しなければならない場合は、許可制を取り入れる方法などがあります。許可申請書については以下の内容が明記されていると対応がスムーズです。
勤務形態/勤務先の情報/業務内容/勤務場所/勤務期間/就労日と時間
多様な働き方への対応
副業や兼業を禁止する企業が少なくないことからも、自社以外に仕事を持っていることを、あまり良く思わない企業も存在します。しかし、労働人口が減少する将来の日本では、さまざまな事情を抱える労働者が共存できる仕組みを目指さなければなりません。育児や介護をする人、高齢者や障害者など、その人にとって最適な働き方に理解を示していく必要があります。特に65歳以上の労働者では、自身の体力や都合の良い時間に合わせて働きたいというニーズから、敢えて非正規を選ぶ人も多いようです。豊かな労働力を確保するためにも、従業員の多様な働き方を理解しましょう。
労働時間の管理方法の見直し
兼業や副業を許可する場合、労働時間の通算が必要です。
兼業先や副業先における従業員の労働時間数を把握しなくてはなりません。
一方の職場で法定労働時間に達している場合、もう一方の職場で時間外労働がなくても、割増賃金が発生する可能性があるので注意しましょう。
また、時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間であり、臨時的な特別の事情がある場合も単月で100時間未満・複数月平均80時間以内、年720時間以内です。